抗血小板薬・抗凝固薬の術前休薬期間とヘパリン化

心疾患や脳血管疾患などのためにプラビックスやバイアスピリン、ワーファリンといった抗血栓薬・抗凝固薬を内服している方がいます。

そういった患者さんが手術をするとなった時に、出血リスクが高い場合に抗血栓薬・抗凝固薬を休薬が必要になります。(手術によっては血栓梗塞症の誘発を考慮して休薬せずに手術する場合もあります。)

手術患者が抗血栓薬・抗凝固薬を内服しており、疑問に思った場合には医師に確認する必要がありますね。

今回は、よく使われている抗血栓薬・抗凝固薬の休薬期間とヘパリン化についてです。

目次

抗血栓薬と抗凝固薬

抗血栓薬と抗凝固薬は、とても似ているような気がしますよね。
その作用はどちらも、血栓を防ぐために内服するものなのですが、その作用機序に違いがあります。

抗血栓薬は、傷ついた血管壁に血小板が集まり、血小板どうしがくっつき塊をつくり傷を塞ぐという一次血栓を防ぐ目的で投与されます。(血栓の活性化を防ぐ)
抗凝固薬は、一次血栓が作られた後に凝固因子の働きでフィブリン網により強固な血栓(フィブリン血栓)となるという二次血栓を防ぐ目的で投与されます。(血液の停滞によるフィブリン血栓ができる状態を防ぐ)

 

抗血栓薬・抗凝固薬の休薬期間

よく使われる代表的な抗血栓薬・抗凝固薬の休薬期間について図にしていきます。

抗血栓薬

一般名(商品名) 休薬期間 作用持続期間
チクロビジン塩酸塩
(バナルジン)
10~14日前 10~14日
クロピドグレル硫酸塩
(プラビックス)
 14日前 10~14日
シロスタゾール
(プレタール)
3日前 48時間
低用量アスピリン
(バファリン、バイアスピリン)
 7日前 7~10日
リマプロストアルファデクス
(オパルモン、プロレナール)
1日前 3時間
サルポグレラート塩酸塩
(アンプラーグ)
1日前 4~6時間

抗凝固薬

一般名(商品名) 休薬期間 作用持続期間
ワルファリンカリウム
(ワーファリン)
 3~5日前  48~72時間
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン塩酸
(プラザキサ)
24時間
エドキサバントシル塩酸水和物
(リクシアナ)
 24時間 24時間
リバーロキサバン
(イグザレルト)
24時間 24時間
アピキサバン
(エリキュース)
 2~4日前

 

 

ヘパリン化とは

出血リスクの伴う大手術では、抗血栓薬・抗凝固薬は休止することが一般的です。

しかし、これらの薬剤を使用しているということは血栓症発症のリスクが通常の患者よりも高いということがいえます。
手術が成功しても、血栓が生じてしまい脳梗塞などを起こしてしまってはいけません。

血栓形成のリスクが特に高い患者では短期間の抗血栓薬・抗凝固薬の中止でも危険な場合があります。
そんな患者に対して、手術直前まで血栓が生じないように薬剤を投与します。

その際に使用される薬剤がヘパリンです。
今まで内服していた抗血栓薬・抗凝固薬からヘパリンに変更するため、ヘパリン化やヘパリン置換と呼ばれています。(ここではヘパリン化としていきます。)

 

なぜヘパリンが使用されるの?

ヘパリンが使用される理由としては、①半減期が短い、②プロタミンという拮抗薬がある、③持続静注のため速やかに調節が可能である、ということがいえます。

①半減期が短い
内服薬では持続時間が長いために、薬剤ごとに休薬期間が必要になります。例えば、ワーファリンでは、3~5日の休薬が必要です。
しかし、静注の場合のヘパリンは半減期が約40分(約3時間後には消失)であるため、手術の4~6時間前まで投与し続けることができます。

②プロタミンという拮抗薬がある
プロタミンはヘパリンの作用を急速に抑えたい場合に投与され、ヘパリンと結合してその作用を抑制する薬剤です。ヘパリン1000単につきプロタミン10~15mg投与されます。

③持続静注のため速やかに調節が可能である
採血によりAPTTを測定することにより効果を確認することができ、また、持続で静注しているため調節を容易に速やかに行うことができます。(APTTを正常値の1.5~2.5倍を目安に調節します。)

 

ヘパリン化の流れ

  1. 手術の前に、対象となる抗血栓薬・抗凝固薬を中止し、ヘパリンへ変更する。
  2. APTTが正常値の1.5~2.5倍となるようヘパリンの流量を調節する。
  3. 手術の4~6時間前にヘパリン投与を中止し、必要に応じてプロタミンを投与する。
  4. 手術が終了したら、速やかにヘパリン投与を再開する。
  5. 飲水可能時間になったら、中止していた抗血栓薬・抗凝固薬を内服する。
  6. 抗血栓薬・抗凝固薬を内服したら、ヘパリン投与を中止する。(ワーファリンに関しては作用するまでに時間がかかるため、PT-INRが治療域となるまでヘパリンを併用する。)

 

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