目次
目的と適応
目的
- 確実な気道の確保
- 呼吸機能の悪化時や気道浄化、呼吸筋疲労の改善
- 人工呼吸器での管理
- 全身麻酔時の換気の維持
- 分泌物の除去
適応
- 呼吸不全
- 上気道閉塞(二次的な気道の腫脹、外傷、腫瘍、出血など)
- 気道浄化(気管分泌物・出血が多量、自己喀痰が不十分)
- 高度意識障害
- 心肺蘇生
- 全身麻酔
必要物品
- 喉頭鏡(ブレードとハンドル)
- 挿管チューブ(成人男性:8.0~9.0mm・成人女性:7.5~8.0mm)
- スタイレット
- 局所麻酔薬ゼリーまたはスプレー(例:キシロカインゼリー、キシロカインスプレー)
- 固定用テープ2本
- 薬剤(鎮静薬・鎮痛薬・筋弛緩薬・抗不整脈薬など医師の指示に従う)
- 挿管枕またはバスタオル
- カフ圧計
- 10mlシリンジ(カフ圧用)
- バイトブロック
- バッグバルブマスク
- 使い捨て手袋
- ディスポーザブルエプロン
- 吸引一式(吸引器・吸引チューブ)
手順
[準備]
1.必要物品が揃っていることを確認する。
2.アンビューバッグを接続し、酸素が供給されるよう準備する。
低酸素血症に陥りやすいため酸素を準備する。
3.吸引器を組み立て、吸引が行えるように準備する。
唾液や痰、嘔吐物が口腔内に貯留していることが多く、吸引が行えるようにしておく。また、挿管の操作により嘔吐や出血することがあるため。
4.喉頭鏡を組み立て、ライトが点灯されることを確認する。
十分な明るさを保ち、視野を広くし誤挿管するリスクを減らす。
5.挿管チューブのカフに10mlシリンジで空気を注入しカフの破損がないことを確認し、確認後はカフの空気を抜いておく。
・カフは挿管チューブを気道に留置し、唾液・分泌物・嘔吐物などを気管に流入するのを防ぐことと、気管に送られた吸気を漏らさない役割がある。 ・感染予防のため、カフには手を触れないようにする。
6.経口挿管の場合は、スタイレットが先端から出ないよう、先端手前2cmくらいまで挿管チューブ内腔に挿入する。
スタイレットの先端がチューブから出ていると、気道粘膜を損傷するリスクがあるため、先端を突出しないよう長さを調節しておく。
7.挿管チューブ先端に局所麻酔薬のゼリーを塗布する。
8.患者の状態をモニターできるよう心電図、SpO2、血圧計を装着する。
低酸素・高二酸化炭素血症になりやすいため呼吸・循環不全の兆候に常に注意する。また、挿管前に鎮静薬使用されるケースでは血圧低下などに注意する。
9.患者を仰臥位フラットの体位に整え、必要時、挿管枕を挿入する。
医師が声帯を直視しやすくなる。この際に上半身の着衣を外し胸部が見えるようにするとよい。
10.義歯をしている場合は取り外す。
誤嚥、誤飲の可能性があるため。
11.手指消毒し、ディスポーザブルエプロン、マスク、使い捨て手袋を装着する。必要時、ゴーグルを装着する。
スタンダードプリコーションを行い、感染の予防を行うため。[挿管介助]
1.介助者は喉頭鏡を施行者に手渡す。
ブレードの先端を患者の足側に向けて医師の利き手と反対側に渡す。
2.医師は喉頭鏡を使って喉頭展開する。
必要時(胃内容物があるときや声門が確認しにくい時)、看護師は輪状軟骨圧迫法を行う。
・輪状軟骨圧迫法(セリック法)とは、胃内容物の逆流を防止し、声門の確認を容易にするため、輪状軟骨を背側に押し付ける方法。 ・喉頭展開の際、必要に応じて吸引チューブを医師に渡す。
3.看護師は準備した挿管チューブを施行者の利き手に渡す。
4.医師は挿管チューブを気管内に挿入する。
5.医師は挿管チューブから手を離さずに位置を固定し、チューブが声門を越えたら医師の指示で看護師はスタイレットを抜去する。
チューブが抜けないように、挿管チューブを押さえながら静かにスタイレットを抜去する。
6.看護師はカフに空気を約5ml注入する。
シリンジで注入するためカフ圧が不明である。注入しすぎると気道粘膜の血流を阻害してしまうため注意する。
7.看護師はアンビューバッグで換気し、医師は正しく挿管されているか確認する。
聴診:胃泡音や呼吸音左右差の有無
視診:胸郭の上下運動や左右の動きの対称性
8.介助者は挿管チューブの固定を行う。
・自己抜管や事故抜管などの計画外の抜管を予防する。固定の方法は施設ごとに異なるため、その方法に従う。 ・歯がある場合にはバイトブロックを使用する。歯牙によるチューブの破損や閉塞の予防、口腔内吸引の目的で、バイトブロックの溝の部分にチューブをあてて固定する。
9.気管内と鼻腔・口腔内を吸引する。
10.カフ圧を20~30cmH2Oに設定し、医師の指示に従って酸素療法を開始する。
カフ圧が高いと、カフと接触している気管粘膜の壊死、浮腫、出血や肉芽形成になることや、穿孔になるリスクがある。逆にカフ圧が低いと、カフ上部に貯留した分泌物が気管に流れ込む原因ともなりVAP(人工呼吸器関連肺炎) になりやすいといわれている。
11.エプロン、手袋を外し、手指消毒を行い、使用した物品を片付ける。
12.胸部レントゲンで挿管チューブの位置を確認する。
挿管チューブの位置と無気肺の有無などを観察するため。チューブの先端が気管分岐部の2~3㎝上が良いとされている。
13.処置の内容を記録する。
挿管チューブのサイズと挿入の長さは必ず記録する。
観察項目
- 意識レベルの変化
- バイタルサイン
- 皮膚色(顔・唇・爪)、呼吸数、呼吸パターン
- 呼吸音、胸郭運動
- 気道分泌物の量・性状
- 胃部膨張の有無
- 挿管チューブの固定状況(位置・深さ)
- カフ圧
気管挿管チューブが確実に入っているか確認するポイント
- 胃泡音の有無
- 呼吸音左右差の有無
- 胸郭の上下運動や動きの対称性
- 胃膨満はないか
- レントゲンでの挿管チューブの位置は適切か(気管分岐部の2~3cm上)
- SPO2の低下がないか
- 血ガスのデータで、呼吸状態の改善があるか
- 人工呼吸器装着後、呼吸の波形が確認できるか
トラブル時の対応
・食道挿管
吸気時に胃が膨らんでいく、聴診にて呼吸音が聴取できない・胃泡音が聴取できる、SPO2値が下がる等、食道挿管が疑われた場合は直ちに抜去し再挿管する。
・片肺挿管
片肺挿管が疑われる場合は、一度カフの空気を抜いてから1~2㎝チューブを引き抜き、再度チューブの位置を再評価する。
気管分岐部の構造上、右肺に入りやすい。
・不整脈
直ちに挿管を中断し、用手換気で十分に換気する。また、医師の指示により薬剤を投与する
迷走神経刺激や低酸素血症などにより生じる
・カフ部からのエアーリーク
カフ圧を確認し、適切な圧(20~30cmH2O)に調整する。
カフ圧が適切に調整できない、エアーリークが持続してSPO2が低下する場合は、カフの損傷を疑い、挿管チューブの入れ替えを検討する。
・咽頭、気管粘膜の損傷、出血
出血量・性状の観察を行い、必要時、吸引の頻度を減らす。
・咽頭浮腫
指示によりステロイドを投与する。
気管支ファイバー等を使用しての挿管に切り替える。
上記で挿管できない場合は、輪状甲状靭帯穿刺・切開、緊急気管切開を考慮する。
・挿管チューブの閉塞
気管内吸引を行う。
体位ドレナージやスクイージングなどを行う。
チューブが完全に閉塞し、SPO2低下が改善しない場合は、一度挿管チューブを抜き、再挿管する。
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