目次
胸腔ドレーン(トロッカー)とは
胸腔ドレーン(トロッカー)とは、持続的に胸腔内に貯留した胸水・血液・膿などの排液、空気などを排気することにより、胸腔内圧を適正な陰圧に保ち呼吸状態の改善を図るものである。
穿刺に伴う合併症を予防するために、体位の保持や呼吸などの全身状態の観察を行い、患者の不安を軽減し、スムーズに処置を行えるよう援助・医師の介助を行うことが必要である。
目的と適応
目的
- 胸腔内に貯留した液体、空気を排出することで、虚脱した肺の再膨張を促す。
- 胸腔内の洗浄や薬液注入を行う。
- 検査や診断目的で胸腔内を採取する。
適応
以下の原因により胸腔内に液体や空気が貯留し、肺の圧排(圧迫されること)が認められる患者。
- 呼吸症状を有する大量胸水
- 膿胸
- 胸部X線所見上10%以上の肺虚脱を来した気胸
- 陽圧換気が必要な外傷性気胸
- 200ml以上の外傷性血胸
- 肺、胸膜、縦隔の腫瘍
- 開胸手術後
必要物品
- 消毒セット(滅菌綿球、滅菌摂子)
- 消毒液(ポビドンヨード液など)
- 滅菌穴あきドレープ、もしくは滅菌覆布
- 滅菌手袋
- ディスポーザブルシーツ
- 局所麻酔薬
- シリンジ(10ml)
- カテーテルチップシリンジ (30ml)
- 注射針(18G、23G):局所麻酔用の穿刺針
- 縫合セット(縫合用持針器、鑷子、鉗子、メス、ハサミなど)
- 縫合糸(シルクまたはナイロン糸)
- 縫合針
- 滅菌Yガーゼ
- 滅菌ガーゼ
- 固定用テープ、滅菌透明フィルムドレッシング材
- 胸腔ドレナージボトル
- 滅菌蒸留水
- 滅菌済み体内留置排液用ドレーン(トロッカーカテーテルⓇなど)
- コネクター付き接続管
- 低圧持続吸引器
- 結束用工具(タンガンなど)
- 結束用バンド
- チューブ用鉗子
- マジック
- パルスオキシメーター
- 使い捨て手袋
- マスク
- キャップ
- 滅菌ガウン
《必要時》
- ドレナージチューブ(延長用)
手順
持続吸引(胸腔ドレナージボトル)の準備
1.手指衛生を行う。
微生物の伝播を防ぐ。2.胸腔ドレナージボトルを開封し、破損、汚れがないか確認する。
3.水封室へ滅菌蒸留水を注入線まで注入する。(注入された水は青色に着色される。)
・注入された水は水位や気泡の有無を確認しやすいよう着色される。 ・注入線より少ないと気密性や陰圧を維持できない可能性があり、逆に多いと呼吸仕事量が増すため、量を守り注入する。
4.調圧室へ設定圧の高さまで滅菌蒸留水を注入する。(注入された水は黄色に着色される。)
・胸腔内圧は、水封室細管と調圧室の水位の和となる。 ・高圧で吸引すると、出血や穿孔のリスクとなるため、吸引圧は-15~-10cmH2Oが一般的である。(1cmH2O=0.98hPa)
5.水封室と調圧室を連結チューブで接続し、胸腔ドレナージボトルの吸引ポンプ接続チューブと低圧持続吸引器を接続する。
6.胸腔ドレーン接続前に気密性の確認を行う。
①胸腔ドレーン接続チューブをチューブ用鉗子でクランプする。
確実にクランプするため、チューブ用鉗子は2本の向きを変えて交互にかける。
②吸引ポンプ接続チューブを吸引器へ接続し、吸引器を作動させる。
③水封室に気泡が発生し、さらに吸引を続けると、水封室の気泡は徐々に消失し、調圧室の水中内に気泡が発生することを確認する。
④気泡を確認したら、吸引ポンプ接続チューブを吸引器から外し、水封室の水が細管を上昇し、20~30秒静止していることを確認する。
水封により陰圧が維持されていることを確認する。
⑤チューブ用鉗子を外す。
胸腔ドレーンの挿入
1.同意書など必要書類、消毒薬や麻酔薬などのアレルギーの有無、特筆すべき既往歴、外傷歴の有無、検査結果(胸部レントゲン、血液データなど)を確認する。
・アレルギー症状、アナフィラキシー性ショックの発現、処置による合併症を予防する。 ・凝固障害がある場合、重篤な合併症を引き起こす危険性がある。
2.患者の元へ行き、患者本人であることを確認する。
患者誤認防止のため。
3.処置の必要性、所要時間、方法、合併症などについて医師から説明を受けて理解しているか確認し、必要時には注意事項などの補足説明を行う。
4.排泄の有無を確認し、事前に済ませてもらう。
5.バイタルサインを測定し、全身状態を観察して実施前の評価・確認を行う。
6.パルスオキシメーターを装着し、酸素投与の準備をする。必要時、心電図のモニタリングや末梢ラインの準備を行う。
7.環境を整える。
①十分なスペースを確保する。
②ベッドの高さを調節し体位を整え、医師が体位を決定したら、穿刺部位を露出する。患者に動かないよう説明する。
挿入時の体位は、挿入位置(排出される内容や貯留部位により異なる)により決定される。 通常、仰臥位やセミファーラー位をとる場合が多いが、貯留部位によってはやや後方からの挿入を行うために側臥位や座位で行う場合もある。オーバーテーブルの上に枕を置いて、上体を預けるような姿勢をとってもよい。
③汚染防止のためディスポーザブルシーツを敷く。
④術者(医師)が超音波検査装置(エコー)で穿刺する部位を検索し、穿刺予定部位にマーキングする。
8.看護師は手指衛生を行い、使い捨て手袋、マスク、キャップ、必要時には袖付きビニールガウンを装着する。
処置をスムーズに進めるため。
10.穿刺の介助を行う。
①医師はキャップ、マスクを装着し、手指衛生を行う。
②看護師がガウンテクニックで介助し、医師は滅菌ガウン、滅菌手袋を装着する。
感染防止に留意し、物品は清潔区域の外から渡す。
③医師は、穿刺部周囲20~30cmの範囲を中心から外側へ向かって円を描くようにポビドンヨード液で3回程度消毒する。消毒後は2分以上乾燥させる。
穿刺部位を無菌状態に保つため。ポピドンヨードは乾燥させることにより消毒効果が最大限に発揮される。
④看護師が滅菌穴あきドレープを清潔操作で開封し、医師に渡す。
⑤広範囲に滅菌ドレープがかかること、挿入中は体を動かさないことを患者に説明し、医師は滅菌穴あきドレープを取り出し、患者にかける。
⑥医師の使用する滅菌ガーゼ、シリンジ10ml、注射針、メスを看護師が開封して清潔に渡すか、ワゴンの清潔野に落とす。
⑦局所麻酔薬のアンプルをカットし、薬品名が上になるように傾けて差し出す。アンプルは切り口の角を下に向け、医師が吸引しやすいようにする。
薬品名を医師に見えるようにしてダブルチェックすることで誤薬のリスクを減少させる。
⑧医師は患者に声をかけながら局所麻酔を行う。看護師は呼吸や循環動態を観察し、適宜患者に声かけをする。
キシロカインによるショック症状や、気分不快・喉の違和感・呼吸困難感・冷汗・顔面蒼白などのアレルギー症状の観察を行う。
⑨医師は局所麻酔の効果を確認したら、挿入する胸腔ドレーンの太さに合わせて皮膚をメスで小切開する。
⑩穿刺する旨を患者に伝えてから針を穿刺する。
・呼吸運動により、胸膜や肺を損傷するリスクがあるため、穿刺時には息を止めてもらう。 ・看護師は患者の状態を観察する。穿刺の合併症として、血管損傷・横隔膜の損傷などによる疼痛・出血・咳・呼吸困難感・冷汗」・頻脈などがある。
⑪胸腔ドレーンの先端部が目的部位まで挿入されたら、内針を抜去して胸腔ドレーンをクランプする。
内針を抜去後、速やかに胸腔ドレーンをクランプしないと、空気が胸腔内へ入り肺が虚脱する危険性がある。
11.穿刺後の介助を行う。
①医師は挿入した胸腔ドレーンと胸腔ドレーン接続チューブの接続部をつなぐ。
検体採取の必要がある場合には、医師がカテーテルチップシリンジで採取するため、看護師は医師が不潔にならないように受け取り滅菌スピッツなどに移す。
②看護師は、胸腔ドレナージボトルを低圧持続吸引器にセッティングする。
③設定圧を医師に確認し、胸腔ドレーンのクランプを開放後、吸引を開始する。
急に高圧で吸引すると出血や穿孔を引き起こすリスクがあるため、吸引圧は徐々に上げていく。
④排液または排気を確認する。
⑤胸腔ドレーンの縫合固定を行う。
・胸腔ドレーンの脱落を予防し、皮下気腫を予防するために適切な位置で固定される。 ・胸腔ドレーンの太さと挿入の長さ、何針で固定されたか確認する。
⑥出血や胸水の漏出がないことを確認後、滅菌穴あきドレープを取り除く。
⑦胸腔ドレーン挿入部を再度消毒し、滅菌Yガーゼ、滅菌ガーゼ、固定用テープで固定、もしくは滅菌透明フィルムドレッシング材を挿入部に貼付する。
胸腔ドレーン挿入部の気密性を保ち、感染を予防する。
⑧胸腔ドレーンと胸腔ドレーン接続チューブの接続部を、結束用工具を使って結束バンドで固定する。
ほかの全ての接続部位もテープなどで固定し、ドレナージシステム全体の気密性を保つことで胸腔内へのエアリークを防ぐ。
⑨胸腔ドレーン接続チューブは体に沿って固定用テープで2カ所以上固定する。
・胸腔ドレーンの誤抜去を防ぐため。 ・胸腔ドレーンが抜けてきていないかを観察するために、ドレーンと皮膚にマジックでマーキングをしておくとよい。
12.患者の状態を観察する。
バイタルサインの他、ドレーン穿刺部の止血状態や疼痛の有無・程度、息苦しさ、顔色、排液の量・性状・スムーズに流出しているかを観察する。
13.患者に終了したことを告げ、余分な消毒薬をおしぼりなどでふき取り、寝衣を整える。
14.使用した物品を適切な方法で片付ける。
15.指手衛生を行い、処置の内容と結果、挿入した胸腔ドレーンの太さと挿入の長さ、部位、何針で固定されたのかをカルテに記録する。
※胸部レントゲンで胸腔ドレーン先端が正しい位置にあるかを医師が確認する。
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