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輸血管理の実際
輸血療法は適正に実施された場合には、非常に有効な治療方法であるが、副作用や合併症が生じる可能性があるということを常に念頭において援助しなければならない。
そのためにも、実施の方法や副作用の症状、副作用発生時の対応をしっかりと行うことにより、致命的な後遺症の発現を最小限にすることができる。
必要物品
- 輸液スタンド
- 使い捨て手袋
- 消毒用アルコール綿
- ヘパリン加生理食塩水または生理食塩水
- 輸血同意書
- 輸血セット(輸血製剤をラインに満たし投与できる状態のもの)
- 注射指示書
- 血液型を確認できるもの(血液検査結果など)
- 体温計
- 聴診器
- 血圧計
- パルスオキシメーター
- 輸血時副作用報告書
《必要時》
- 輸液ポンプ(輸血対応のもの)
輸血対応のポンプ以外を使用すると、薬液を送り出すフィンガー部分によって血球成分が壊れ、溶血を起こすおそれがある。
手順
1.患者へ輸血の目的を説明し同意を得る。
2.全身状態観察のためバイタルサインを測定する。
・輸血実施前の状態が安定しているかを把握しておくとともに、異常を早期発見することができる。 ・輸血前の、体温、血圧、脈拍、酸素飽和度の測定を必ず行う。
3.血液製剤と注射指示書を持って患者のベッドサイドへ行き、患者と輸血の照合を行う。患者自身に姓名と血液型を言ってもらい、輸血指示書と輸血バックに貼付されている供給表の氏名・血液型を確認する。(施設で規定されている輸血照合方法で注射指示書を確認する。)
・必ず医療従事者2人で患者確認を行う。電子照合システムの場合でも、同様に行う。 ・患者誤認を予防すると共に、異型輸血や輸血量の間違いが起きないように、ベッドサイドで再度、照合を行う。
4.手指衛生を行い、使い捨て手袋を装着する。
微生物の伝播を防ぐ。5.輸血を開始する。
①静脈ラインが確保されている場合には、延長チューブの接続部をアルコール綿で消毒後に、生理食塩水シリンジでチューブ内をフラッシュしラインの閉塞や点滴刺入部の腫脹・発赤・疼痛がないかを確認し輸血ラインを接続する。(静脈ラインが無い場合には血管確保を行う。)
輸血製剤は、他の薬剤と混合すると凝固、凝集、溶血、蛋白質変性などがみられる可能性があるため、基本的には単独投与で、他の薬剤との混合は禁忌である。
②最初の10~15分は1ml/分、その後:5ml/分の速度で投与する。
輸血に伴う副作用は致命的となり得るので、急性反応がないことを確認する目的で、最初はゆっくりと投与を開始する。
6.輸血中の患者の観察を行う。
①輸血開始後5分間はベッドサイドで患者の状態を観察する。輸血開始後は5分後、15分後、30分後、終了時の状態(バイタルサイン・副作用症状の有無)を記録する。
不適合輸血やアナフィラキシーショックなどの即時型副作用発生の可能性があるため、開始後最低5分は患者のそばを離れず観察する必要がある。(可能であれば輸血開始後30分は患者のそばで観察を行う。)
②患者に副作用症状について説明し、刺入部の痛みや、副作用出現時は速やかに報告するよう説明する。
③5分後、異常がないことを確認し、ナースコールを患者の手元に置いて退室する。
④輸血終了までは定期的に訪室し、異常の早期発見に努める。
7.輸血を終了する。
①手指衛生を行い、使い捨て手袋を装着する。
②輸血が終了したことを患者に伝え、輸血セットを外し、ヘパリン加生理食塩水または生理食塩水でフラッシュしロックする。(今後、静脈ラインを使用しない場合には静脈ラインを抜去する)
③全身状態観察のためバイタルサインを測定する。
④輸血終了後も適宜観察を継続する。
8.施設の規則に従い、片付けをする。
使用済みの血液製剤の容器は感染性廃棄物として処理する。
9.輸血実施についての記録を行う。
輸血実施時の注意点
- 輸血を実施する際の静脈留置針は成人では、溶血を防ぐため通常16~18G(小児では21G以上)が適切である。
- 投与速度は、医師の指示に従い投与する。
- 刺入部の固定状態、屈曲・圧迫、接続部の固定、気泡など輸血ルートの異常の有無 、血液バッグの破損、変色、凝集塊など血液バッグの外観の異常の有無を観察する。
輸血副作用発生時の対応
輸血による副作用症状
自覚症状
・血管痛
・胸痛、胸部圧迫感
・悪寒
・呼吸困難(チアノーゼ、喘鳴、呼吸状態の悪化など)
・掻痒感
・全身倦怠感
・腹痛
・嘔気、嘔吐
・頭痛
・動悸
他覚症状
・頻脈
・発熱
・血圧低下
・皮膚紅潮
・蕁麻疹
・意識障害
輸血副作用発生時の手順
1.副作用症状が出現した場合、クレンメを止め輸血を中断する。
さらなる感染源や抗原に曝露されないようにするため。
2.バイタルサインを測定する。
3.医師へ連絡する。緊急の場合は人員を確保し心電図モニターを装着し、モニタリングを行い、救急カートと酸素吸入、吸引の準備をし、気道確保に備える。
患者の状態が急速に悪化する場合があるため、状態の評価のため持続的に測定を行う。
4.手指衛生後使い捨て手袋を装着し、輸血セットを静脈ラインから外し、滅菌キャップをつけて一時保存する。
副作用発生時は、適切な薬剤投与などの処置により改善がみられる場合もあるため、輸血ラインはすぐには抜針しない。
5.医師の指示に従い、輸液や薬剤を投与する。
患者を追加暴露から守るため、新たな輸液セットに交換して行う。
6.輸血副作用を指定の用紙に記録する。
7.後片付けを行い輸血製剤を、輸血担当の部署に返却する。
副作用の原因を調べるため。
8.副作用症状、処置の内容と結果をカルテに記録する。
9.医師の指示に従い、必要に応じて、継続してバイタルサインの測定とモニタリングを行う。
輸血副作用時に使用される薬剤
・エピネフリン
交感神経を刺激することで呼吸困難を改善し、アナフィラキシーによる血管拡張を改善する。
・抗ヒスタミン剤
アレルギー反応を減弱させ、症状を軽減する。輸血副作用歴のある患者などの場合には輸血前に予防投与する場合もある。
・抗菌薬
細菌性感染や敗血症が疑われるときに投与される。
・解熱鎮痛薬
輸血副作用による熱と不快感を軽減する。
・利尿薬
血管内容積を減らして、血管緊張を減少させる。循環過負荷で投与される可能性がある。
・コルチコイド
ヒスタミン放出を減少させて、細胞膜を安定させる。重篤なアレルギー反応で投与される。
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